ネスレ配転拒否事件~パワハラ被害者敗訴判例
パワハラ概要
ネスレの従業員であった被害者Aは、会社側が被害者Aが腰痛であり配転先の営業活動業務に適さず、被害者Aにとってもその業務が苦痛になることを知りながら被害者Aを配転し、その結果、被害者Aは腰痛に悪影響を伴ううえ、自分に適さず能力も発揮できず、10年以上にわたり強要されるという精神的苦痛を受けたと主張した。
会社に対して、配転命令に基づく勤務場所において勤務する義務のないことの確認、および、不法行為による損害賠償請求に基づく慰謝料の賠償を求めた。
この裁判では、もうひとり被害者Bも同時に会社を訴えており、両被害者とも労働組合のひとつである第一労働組合の組合員であり、被害者らに対する配転命令は、第一組合を否認する会社側が、被害者らを本社から隔離し、屈服させるためになされたものであり、それは不当労働行為であり無効であると主張した。
裁判の結果。慰謝料額
請求に理由はない
判旨(配転命令の有効性、人格権の侵害 )
○配転命令の有効性について
ア)業務上の必要性の有無について
昭和58年3月14日の配転命令以降も、配転拒否の理由を変遷させ、赴任直前の昭和58年5月13日ころになってはじめて腰痛を持ち出したのであって、会社側が、被害者Aが腰痛であることを知って、あえて配転を命じたものと認めるに足りる証拠はないから、配転命令には業務上の必要性があったものと認められる。
イ)被害者Aの受ける不利益について
通勤時間の長さは被害者Aにとって許容範囲内であり、担当した業務も、電車などの公共交通機関で回ることが可能な店舗のみであったことを鑑みても、配転により被害者Aが不当な不利益を受ける可能性を会社側が予見しうる状況にあったとは到底認めがたく、また、腰痛を悪化させるほどに過酷であったと認めることはできない。
ウ)不当労働行為の成否について
会社が被害者らの組合加入および活動を嫌悪して、これに報復しようとして配転命令を発するに至ったと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、配転命令は十分な合理性を有するものであり、不当労働行為の成立を認めることはできない。
○被害者Aに対する人格権侵害行為の有無について
ア)インフォーマル組織への勧誘等の有無について
組合活動において、被害者Aは会社から具体的に何らかの不利益を受けたり、権利を侵害されていたと認めるに足りる証拠はなく、よって、会社の不法行為に当たるとまで認めることはできない。
イ)苦痛を伴う労働の強要の有無について
被害者Aの腰痛は、長時間の自動車の運転ができない程度にとどまっており、通院のために早退することはあっても、欠勤したことはなく、通院により症状は改善しており、日常生活に支障のない程度まで回復していることが認められる。
これらの事実に照らせば、配転後の業務が腰痛を悪化させるようあものであったと認めることはできない。したがって、配転が苦痛を伴う労働の強要に当たり、被害者Aの労働者としての人格権の侵害に当たるとの主張には理由がない。
以上によれば、被害者Aに対する配転命令は業務上の必要性に基づく合理的なものであり、これを無効とする事由はなく、また、被害者Aに対する不法行為が成立するということもできないから、被害者Aの請求にはいずれも理由がない。