労働条件の変更~就業規則と個別労働契約の関係
労働契約法によって、就業規則の変更によって労働契約の内容(条件)が変更されてしまうときの基準が明確になりました
個別に労働者と使用者が『合意』すれば、その労働者に対する労働条件を変更することは可能です。
労働条件の変更は、本来、個別的に労働契約の見直しをすることですが、日本では、就業規則によって労働条件を規定する会社が多く、就業規則の変更によって一方的に労働条件を変更させてしまう、ということが起き、労働紛争の原因となっていました。
労働契約法がなかったときは、秋北バス事件の最高裁判例が判例法理となって、紛争に判断をくだしてきましたが、立法化されていないがために、なかなか一般の人が知ることができませんでした。
労働契約と就業規則の関係
法令・労働協約>就業規則>労働契約
使用者が労働者に、就業規則を周知していた場合で、その就業規則に労働条件が定められている場合には、労働契約の内容は、その就業規則のものになります。
もちろん、労使間で合意した労働契約内容があれば、それに従います。ただし、就業規則内の労働条件より労働者に不利なものは無効になります。
就業規則がある場合の労働条件の変更
使用者が労働者と合意することなく、労働条件の不利益変更になる就業規則の変更をしてはいけない、というのが原則となります。
就業規則の変更によって、労働条件を変更したい場合は、
- 変更することが、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などが、合理的であること
- 労働者に変更後の就業規則を知らしめること
以上の2点が必要になります。合理的であるかどうかの立証責任は使用者にあります。
労働契約条件を不利益変更されないためには、個別労働契約の内容を、『就業規則の変更によっては変更されない労働条件である』と、合意をしておくことが必要です!!
就業規則変更の裁判所の考え方
労働契約と就業規則について
(秋北バス事件最高裁 判例法理)
新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を失い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない。
どのような場合に就業規則の変更が『合理的である』と判断されるか
(大曲市農業共同組合事件最高裁)
賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることをできるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべき
就業規則の変更が『合理的である』と判断される7ポイント
(第四銀行事件最高裁)
定年を延長する代わりに、給与が減額された場合に、その合理性の有無の判断には、
- 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、
- 使用者側の変更の必要性の内容・程度、
- 変更後の就業規則の内容自体の相当性、
- 代償措置その他関連する労働条件の改善状況、
- 労働組合等との交渉の経緯
- 他の労働組合又は他の従業員の対応、
- 同種事項に関する我が国社会における一般的状況
等を総合考慮して判断すべきである。
一部の労働者に多大な不利益を与える就業規則の変更について合理性を否定した
(みちのく銀行事件最高裁)
賃金体系の変更により大幅な不利益を生じさせる場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに一部の労働者に大きな不利益のみを受任されることには、相当性がないものというほかはない。
一部の労働者が被る不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労働組合の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである
就業規則が拘束力を生じるためには、周知が必要
(フジ興産事件最高裁)