東芝府中工場事件~パワハラ被害者勝訴判例
パワハラ概要
東芝府中工場の従業員であった被害者が、上司の常軌を逸した言動により人格権を侵害されたとして、会社およびその上司に対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料を、また、会社に対しては、賃金請求権に基づき欠勤期間中の賃金の支払いを求めた。
裁判の結果。慰謝料額
一部容認
- 慰謝料:会社および上司に対してそれぞれ慰謝料15万円
- 賃金:欠勤期間中の賃金約5万5000円
判旨(違法性、賃金請求、慰謝料請求)
○東芝府中工場の行為の違法性について
東芝府中工場は、所属する従業員を指導監督する権限があり、必要に応じて、従業員を叱責したり、時に始末書等の作成を求めることは、必ずしも個人の意思の自由とも抵触するものではないため、それ自体が違法性を有するものではない。
しかし、その権限の範囲を逸脱したり合理性がないなど、裁量権の濫用にわたる場合には違法性を有すると解釈できる。
また、ある従業員に対し他の従業員と別異に扱うことは、個々の従業員の個性や能力に応じて対応するのは当然のことであるから違法性はない。
ただし、別異に扱うことに合理性がない場合には違法性をもつものと解釈すべきである。
上司が、被害者に対して注意や叱責をし、反省書等を書かせたことは、指導監督するうえで必要な範囲内の行為であり、適切な行為というべきである。
しかしながら、休暇を取る際の電話のかけ方などの軽微な過誤について、執拗に反省書等を求めたりしたことには多少感情に走りすぎた嫌いがあり、事柄が個人の意思の自由にかかわりを有することであるだけに、その裁量の範囲を逸脱し、違法性を帯びたものと言わざるを得ない。
○賃金請求について
被害者の心因反応は、昭和56年4月以来、上司の不安全行為や所定の方法で作業しなかったことに対する注意、また、有給休暇の取り方についての執拗な追求および反省書の要求が直接的な原因となっているものと推認できる。
これらはいずれも裁量の範囲を逸脱する違法行為であり、その違法行為は、上司が東芝府中工場の社員として、その部下である被害者の指導監督を行なううえでなされたものであるから、これが原因となった被害者の欠勤は、東芝府中工場の責に帰すべき事由によるものと言え、被害者が会社に対して、早退や欠勤を理由として支給されなかった賃金の支払請求を行なうことができる。
○慰謝料請求について
被害者の心因反応の原因は、上司の違法行為にあたるものであり、その使用者である会社の双方が、被害者の被った精神的損害を賠償すべき義務がある。
ただし、被害者はしばしば過った作業をしたり、不安全行為を行なうなど、仕事に対し真摯な態度で臨んでいるとは言い難いところがみられ、
また、上司の叱責に対しても真面目な反応をしなかったり不誠実な態度を取ったりと、被害者自らが招いた面も否定はできない。
そのため、精神的損害を慰謝するには、これらの事情も考慮すべきである。