大曲市農業協同組合事件(最高裁昭和63年2月16日)
労働契約法の、就業規則の変更の効力に関して基本となる判例です。秋北バス事件を踏襲しています。
事件の概要
農協の合併に伴って、新しく就業規則が作成・適用されたが、その退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものだった。秋北バス事件の判例を踏襲した上で、就業規則の合理性について、必要性・内容の両面からみて、労働者が受ける不利益の程度を考慮しても、新しい労使関係における就業規則の法的規範性を是認できる合理性があるとして、新しい就業規則は不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生じるものとした。
事実概要
7つの農業協同組合が合併されることになった。新しい就業規則は、合併前のある農協の退職給与規定に比べ、退職金支給倍率が低くなっていた。しかし、給与額は合併にともなう給与調整などによって、相当程度増額されており、退職時までの給与調整の累積額は、この裁判で争われている請求額とほぼ同じ額になる。さらに、合併の結果、休日・休暇・諸手当などの面で有利になり、定年も男子は1年間・女子は3年間延長されている
判決と解説
「就業規則の条項が合理的なものである」とは、
就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面から見て、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお労使関係における条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものである。
特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利・労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
とした。
具体的には
新規程によって変更されたこと
- 退職金の支給倍率が低減された
- 給与額は給与調整、延長された定年によって、定年退職時までに通常の昇給分を超えて、相当程度増額されている
これらのことから、実際の支給倍率の低減による見かけほど退職金額は低下しておらず、金銭的に評価できる不利益は、原告労働者がこの裁判で請求している金額よりもはるかに低額であることは明らかで、新規程によって被った実質的な不利益は仮にあったとしても原告が訴えるほど大きなものではない。
また、一般的に合併が行われると、労働条件の統一的画一的処理の要請から旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成・適用しなければならない必要性が高いことは言うまでもない。
さらに、原告労働者の従前の組合と、その他6組合の格差は、過去に秋田県農協協同組合中央会の指導・勧告に従わなかったために生じたといういきさつもあるから、この合併で格差を是正しないでいると人事管理面で支障をきたすことは目に見えている。
また、給与調整の退職時までの累積額は賞与及び退職金に反映した分を含めると、本訴における請求額程度に達しており、旧組合よりも休日・休暇、諸手当、旅費等の面で有利な扱いを受けるようになり、定年は男子1年、女子3年延長もされている。これらの措置は退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返り・代償としてとられたものではないとしても、合併に伴う格差是正措置の一環として新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たって、考慮することのできる事情である。
よって、原告らが被った不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、新規程への変更は、合併後の組合の労使関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有する。新就業規則は原告労働者に対しても効力を生ずる
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